「ハイライト」と呼ばれる現象が瞳に現れるもので、表現の仕方によってはキャラクタに生気を与えたり、逆に感情を消すこともできる重要な要素です。
キャラクタイラストでは睫毛や虹彩の描き方と共に様々な描き方が試行錯誤され、様式化が進みました。
多く見られるのは瞳の中に光源の方向にあわせて白い円状のハイライトを描くもの。これだけでキャラクタの表情が活き活きとしてくるから不思議です。
右の絵のように大きなハイライトの脇に小さなハイライトを置くスタイルもみられます。こんな風に大きな丸い点を主としたハイライトの描き方は、キャラクタイラストが発達する中で最も一般的な様式として定着してきました。
ところで、この瞳に映るハイライトの正体ってなんなんでしょうか。
もちろんそれはハイライト、光沢のある面に現れるシャープな明るい部分に間違いありません。それが人間の眼球に現れている、ただそれだけの話です。
しかし、随分長い間、私はその本当の意味を理解できていなかったように思います。
往年のアニメやマンガでは、大量の星を散りばめたようにハイライトを誇張する様式が発達しました。
この絵はそんな様式に準えて描いてみたもの。
代表的な例として偉大な先人、いがらしゆみこ先生の様式を参考にさせていただいてます。
時に過剰な表現と揶揄される場合もあるこうしたハイライトを、正直なところ私も敬遠してきました。
しかしこれらの様式は多少オーバーであったとしても、決して荒唐無稽なものではありません。描かれた情報がそれを見るものに何かを伝える時、そこには必ず裏打ちする理論があるものです。
説明しやすいように、ちょっとこんな絵を描いてみました。
複雑な形状のハイライトに注目してみて下さい。
この絵では左上に鋭い台形の大きなハイライトと、その対角線方向に細かいハイライトが散らしてあります。
恐らくキラキラと星を散りばめるハイライトの描き方は、特定の条件下で現れるこうしたハイライトの形状をデフォルメしたものじゃないでしょうか。
この絵も十分誇張した表現ですが、手順は理論に基づいて手動レンダリング的な方法を用いています。
ハイライトとは光沢のある表面に結像する光源の鏡像・・・つまり、眼球という球面の鏡に歪んで映った光源の姿そのもの。
そしてこの場合の光源は、一概に太陽や照明装置のような「光を発するもの」だけとは限りません。
下の図はこの絵のハイライトに用いた画像とそれを加工したものです。
もちろん毎回こんな面倒なことをしているわけじゃありません。飽くまで説明用にと、理論通りの手順を踏んでみました。
瞳は球面ですから、景色は魚眼レンズっぽく歪みます。
これをレベル補正で50%以上の明るい部分だけ取り出したものが真ん中の画像。逆光になっている同級生や窓際の棚、光が当たっていない天井や床は黒く沈んでしまっています。
さらにそれを覆い焼き(発光)で瞳に重ねると・・・ハイライトの正体が何であるかは一目瞭然です。
この場合のハイライトとなっているものの中心は窓。
窓が太陽の光や環境光を屈折させたものがキャラクタの瞳にはっきりと反射し、それが一番強いハイライトを形成しています。
中央付近、対角線上に現れる小さな四角いハイライトの正体はキャンバス。光を反射しやすい大きな白い平面も有力な光源となるでしょう。
瞳の右下に映る微小な点は、人物やキャンバスが落とす影で複雑に分断された床面の日光。
これらが複雑な形状を作り出し、遠目にはキラキラと星のように見えるのです。
もちろん絵を描く上で、反射している景色が美術室であるとは限りません。
例えばそれは海水浴客が寝転がって複雑な影を持った夏の砂浜だったり、グラビア撮影の照明さんが持ったキャッチライトだったり、ホテルのロビーでダウンライトを跳ね返す大理石の床だったりするでしょう。
絢爛なシャンデリアの下に銀食器と燭台の光が並んでいれば、その景色を眺めているキャラクタはまさに少女マンガで発達した様式とそっくりのお星様を瞳に宿しているんじゃないでしょうか。
複雑な明暗を持つ景色が映ってさえいれば、瞳のハイライトはキラキラと光って見えるというわけです。
金属の描き方をまとめた記事でも触れましたが、鏡面反射の質感を持つ表面に映るのは殆どの場合画面外の景色です。それが正しいかどうか、絵を見ている人には答え合わせをする方法がありません。
極論すれば、ハイライトには何を描いても構わないのです。
目を大きく描く場合が多い現代風のキャラクタイラストレーション。
解像度も高くなって、視線を集めやすい瞳にはより多くの情報を持たせることができるようにもなりました。
瞳は画面に入らないカメラの背後を描くことが出来る、もうひとつのキャンバスである、なんてことも言えるかもしれません。
この際常識などぶっちぎって、もっと自由に、思い切ったハイライトを描いてみませんか?