画像はなんとか夏といえる時節に間に合った今年の水着絵です。
相変わらず時間ばかりかかる描き方をしてますが、作業量の多さより各所で迷うのが筆の遅い原因じゃないかなんてことは毎回思います。その点、今回は多少安産だったかもしれません。
今回採った方法も以前書いたグリザイユ画法に関する記事で紹介したものの延長ですが、多少考え方も変わっていますので現段階の進捗をここらでもう一度まとめておこうと思います。
絵を見た方から3DCGっぽい、とはよく言われますが、今回も3D関連のツールは使っていません。使う場合もパースが難しいときのアタリに使う程度です。
見た目が3DCG寄りになるのは考え方が3DCGの原理に基づいているからでしょう。
レイヤーを細かく分解し、複雑怪奇な現実の陰影を人間の脳でコントロールできるレベルまで単純化して描こうというのが趣旨です。目指しているのは絵ですから、3DCGっぽい、なんて言われている現段階では方向性としてまだまだ未完成。
なんのためにこんなことをするのか疑問に思われる方も多いと思いますが、やってる本人は大きな長所がひとつあると信じています。極めれば、“想像だけでなんでも描ける”はずなのです。極めれば・・・ですが・・・
取り敢えず各要素のレイヤーをざっと画像にして見ていきます。実際にはもっと細かく分かれていますが、時には3桁にもに及ぶレイヤーをだらだらと貼り付けても仕方がないのである程度まとめました。
こちらは彩色レイヤー群をまとめたもの。今回は全て単色レイヤーで構成しています。
3DCG用語ではルミナシティ、自己発光等と呼ばれている要素をまとめたレイヤー群で、物体表面の色は全てここで決まります。例えばここを変えれば水着の色など変えられないこともありません。
このレイヤー群の輪郭を使って以下に挙げた陰影に関するレイヤー群をクリッピングするので、比較的早い段階で塗り始めます。各単色レイヤーはレイヤーフォルダにまとめ、そのフォルダに50%グレーのレイヤーカラーを設定しておけば輪郭だけを利用できますから、細かい塗りわけや色は後回しでOKです。
右の図は50%より暗い陰影を描き込んだレイヤー群。そのままだとちょっと怖いので髪と目は足しておきました。
彩色レイヤー群を暗くする陰影だけを抜き出したもので、乗算で彩色レイヤーの上に乗せます。
最近はレイヤー名をアンビエントオクルージョン(Aオクルージョン)としていますが、やはり厳密には意味が違います。
アンビエントオクルージョンというのは乱暴に言ってしまえば凹んでいる部分が暗くなるという現象。
日本語では環境遮蔽といい、最近はゲームなどでもSSAOやHBAOなんて名前でよく話題になります。
絵に採り入れると存在感ややわらかさが出るわけですが、そもそも絵を描く者にとっては古くから感覚的に利用していた技法に近年、理論的な説明と名前がついただけのものです。普通凹んでいるところには陰を入れますよネ。
厳密に違うというのは本来アンビエントオクルージョンでは現れないものも描いてあるというところ。
肩や上腕に太陽光が強く現れているのが御覧いただけると思いますが、アンビエントオクルージョンには本来含まれない現象です。細かい説明は避けますが、彩色レイヤーの原理にちょっとした嘘がある都合で出てくる色の濁りを避けるためにこんなことをしています。
このアンビエントオクルージョンレイヤーだけで絵の概要がわかるほど物体の形状を把握しやすい要素ですから、グリザイユ技法的に絵を描いていく場合はこのレイヤーを中心に作業を進めます。
もともと下書きやアタリだったレイヤーが描いていくうちにこんな風になるわけです。
そしてこちらは残りの陰影、彩色レイヤー群を明るくする陰影だけを抜き出したもの。
加算(発光)モードで彩色レイヤーに乗せます。
水色に見えるのが太陽からの光、肌色に見えるのが砂浜からの反射を描いたもの。浮き輪の反射もここに描いてあります。
夏の砂浜では太陽だけじゃなく、海面も砂も立派な光源です。
実物の陰影は規則性がないんじゃないかと思うほど複雑怪奇ですが、こうした複数の光源が絡み合っていることが難しく見える原因である場合は少なくありません。
3DCGの原理に則って、各要素に分解していくとなんとなくその構造がわかってきます。
最後に背景です。今回はキャラクタが俯瞰気味なので波打ち際を俯瞰で描いてみました。
キャラクタと同じように細かくレイヤー分解して描くと絶対完成しない気がしますから、水彩ブラシでざっと描いています。
砂浜の黄色と海底の珊瑚、椰子の木らしきものの陰などを想定した彩色レイヤーに波(コースティクス等)を描きこんだグレースケールのレイヤーを加算(発光)で重ねた2枚のみです。
今回のサンプルはアルファやレイヤーカラーなど一部の重要な情報がつぶれているので重ねても表題の絵にはなりませんが、大体どんな構造をしているかは御理解いただけると思います。
最近になって大きく変わったのはアンビエントオクルージョンのレイヤーを作業の中心にするようになった点でしょうか。
今後の課題は更なる作業の単純化とCGではなく「絵」であるために何をするかというあたりです。
3DCGの原理に基づくイラストレーションへのアプローチはまだまだ疑問だらけ。迷いも多く、この方向性が正しいのかどうかも私自身はっきり見えていません。
コンピュータにできても人間にはできない部分は当然あり、それを消化し、克服するためには相当量の経験と工夫が必要になるでしょう。
単に3DCGを再現するのではなく、絵であるために必要なものも結局はその辺りにあるのかもしれません。
取り敢えずもう少しあっちこっち迷走してみようと思います。