2012年10月12日金曜日

CLIPSTUDIOPAINT のベクターで髪を描く

キャラクタイラストを描くとき、いつも悩むのは「髪」の描き方です。

髪はとっても複雑な構造をしていて、よくよく観察する程に新たな発見がある難しい部分。
普通に描いたのではどうしたって何本もの線で描くことになっちゃいますから、描いたものが気に入らないからといって “ちょっと修正” なんてわけにはいきません。 全部消してもう一回。気に入らない・・・また全部消して・・・

以前にも触れましたが、CLIPSTUDIOPAINT のベクターはそこを補ってくれます。

これによってようやく気の遠くなる試行錯誤を抜け出し、ちょっとずつ修正しながら髪全体のバランスを作っていけるようになりました。まるで人形に植毛していくような感覚で髪の流れを細かく調整することが出来ます。
何度か試してみていろいろ分かったこともあり、今回はその方法をまとめてみました。

この画像は CLIPSTUDIOPAINT のベクターレイヤーに、カスタマイズした「水彩毛筆」ブラシで線を引いたものです。たった3本の線が集まったものですが、髪の束に見えませんか。

これをどんどん増やしていって、髪の形を作ってしまおうというわけです。
ベクターで出来ているものですから、あとからいくらでも修正が効きます。回転や拡大縮小をかけても劣化しません。

実際にイラストで使用してみるとこんな風になります。

 

左は髪部分の透明度をあげて分かりやすくしてあります。右はパーツ毎に色分けしてみました。
前髪、頭髪、ポニーテールに分かれていて、ポニーテール部分は身体のレイヤーより下においてあります。
もっと複雑に腕や衣類で隠れたりする場合は、隠れるパーツのレイヤーフォルダにマスクを指定して切り取っちゃいましょう。

残念ながらこのままで完成!とはいきませんが、形状を決めるのには十分です。ポニーテールはバランスが難しいので、納得のいくまでこの状態で詰めてしまいます。


と、概要はここまでで一目瞭然、御理解いただけたのではないでしょうか。
細かいところをみていきましょう。


この方法ではふたつ、カスタマイズしたサブツールが必要です。
(記事作成時のバージョン CLIPSTUDIOPAINT(64ビット) Version 1.1.0 Windows版)

ベクター用に調整した「水彩毛筆」のブラシ
「水彩毛筆」サブツールを複製(※必ず複製しましょう)して、複製した方を以下の設定に変更します。

◎<インク> → <下地混色> を解除
 必要ないから解除しますが、ベクターレイヤーでは機能しないだけですからほっといても問題ありません。
◎<補正> → <後補正> を8に設定
 そのままでは無駄に多くの制御点が出来てしまうため、後補正をかけて大胆に間引きます。
◎<ブラシ先端> の <厚さ> を50以下に
 髪の束として都合が良いように偏平につぶします。適用方向垂直、向き180.0を推奨します。
◎<向き影響元設定> → <線の向き> を <なし> に
 この設定は向きの設定のすぐ右にある小さなボタンから開きます。これを設定しないと髪に見えません。
◎<入り抜き> をブラシ濃度、パーセント補正にし、好みの数値を設定
 あとで修正してしまうので入り抜きは好みで構いません。値は20.0くらいで十分でしょう。濃度の最小値は0にします。
◎分かりやすい名前に変更(髪用ベクター水彩、等)


髪専用のオブジェクトツール
イラストの主線やマンガ等でベクターを多用する方はこれも複製して使用することをオススメします。私は現在髪以外にベクターを使用していませんから、共通のオブジェクトツールをカスタマイズしちゃいました。

適当にベクターレイヤーを作成し、オブジェクトツールでそれを編集対象にします。
するとオブジェクトツールのツールプロパティが「ベクター選択中」に切り替わりますから、その状態で以下のように設定を変更してください。

◎ツールプロパティへの表示項目を全て解除(目のアイコンをクリックして解除します)
◎<ブラシ先端> の中の <厚さ> と <向き> をツールプロパティに表示する

ツールプロパティウィンドウの表示に余裕がある人は好みで必要な項目を表示しておいても問題ありません。要するに、<厚さ> と <向き> をいつでも変更できるよう常時表示しておくということです。



準備が出来たら、カスタマイズした水彩ツールでざっくり線を引いてしまいます。

この段階では髪の材料を作るだけです。イメージに近い線がいきなり引けなくても気にしません。

線修正ツールでどんどん修正していきます。





制御点ツールで幅や濃度、制御点数をいじりながら、髪の束を意識して植え付けていきます。

細い束や太い束、厚さの違う束を併用していくことで殆どの部位を表現できますが、どうしても上手くいかない場所はさらっと諦めて仕上げの際に修正です。

後からいくらでも修正が効きますから、一度で決めようとせず全体を見ながら描き足していきましょう。





この時、CLIPSTUDIOPAINT の特性に依存した面白い機能も使えます。

カスタマイズしたオブジェクトツールで髪束のベクターを選択し、ツールプロパティに表示しておいた <厚さ> や <向き> の値をスライドバーで動かしてみると、束の厚さが変わったり、くるくる回っているように見えます。

図の赤マル部分、向きのスライドバーを動かせば髪の束がリアルタイムに向きを変えます。

先述のブラシカスタマイズで向きの設定を垂直にし、180.0にしておくのはこのとき、左右どちらにも傾けることができるようにするためです。

図は頭髪の稜線にかかる部分ですが、こんな場所では頻繁に向きや厚さを操作することになっちゃうので専用のオブジェクトツールを作っておくわけです。




大体の形状が出来上がったら、あとは自分の画風に合わせて、思いのままにつやつやさらさらを目指してラスターで描き足していくだけです。
アニメ的な表現をする場合でもベースになるんじゃないでしょうか。

今回の絵はこんな感じになりました。

こんな風に後からラスターで描き足す場合は必要ありませんが、専用のブラシ先端形状を作るとまた違った表現が出来るのかもしれませんネ。

髪はさらに異方性反射などの特殊な要因で絵描きを悩ませますが、今回の主旨からそれちゃいますからそのお話はまた別の機会に。












補助輪付の自転車に乗るようなもので、何枚も描いていくうちにこの機能を使わなくてもいきなり髪を描けるようになる日は来るのかもしれません。
でもせっかくツールが日々進化してるんですから、いつまでも苦手意識で髪の表現を敬遠してるくらいなら機能に頼っちゃうのが一番です。
補助輪がそうであるように、上達の助けとなるかもしれませんしネ。

ともあれ、独特の楽しさがある機能なので髪でお悩みの方(絵的な意味で)は是非一度お試しを。